2006年10月28日

この場所で、できることを精一杯、やること。

ずうっと前に、ある男の人とデートしたとき、そのひとは言いました。

「よく職業に貴賎はないというけれど、僕はあると思う。例えば、トイレの掃除婦とか。
もしも僕の母親がトイレの掃除の仕事をすることになったら、僕はそれを恥じて誰にも言えないと思う」

私は、同意も否定もできなくて、黙って彼の言うことを聞いていました。

あれから20年。
会社やデパートとかのお手洗いで、お掃除の方に出会う度、彼の言葉がよみがえります。

昨日も、会社のお手洗いで、お掃除のおばさんに会いました。



今の会社は綺麗なオフィスビルですが、お手洗いの設備は普通です。お洒落でもないし、広くもない。
だけど、いつもピカピカで、汚れていて嫌な気持ちになった、ということが一度もありません。

生花はないけれど、造花が飾ってあって、その造花も夏はひまわり、秋はコスモス、と、季節感を感じられる気配りがありますし、よくありがちな造花にうっすらほこりがたまってる、なんてことも一度もありません。

なんと立派なお仕事ぶりだろう。。と、常々感じておりました。

昨日、お掃除中のところを、すみませーんといいながら、お手洗いを使わせていただきました。
お掃除の方は、たぶん、私の母より、10歳くらい若い女性です。私が「すみませーん」と言うと、「どうぞー」と、優しく明るい声で答えてくれます。
そして時々、もしもこのひとが母だったら、私はこのひとを恥と思うだろうか、そんなことを考えています。

手を洗っていると。
鏡の中の彼女がふっとうずくまり、私の足下に小さくしゃがみ込みました。

えっ。。と思って振り返ると、彼女は左手に液体クリーナー、右手に雑巾を持ち、一心に床を磨いています。
その背中からは、どんな小さな汚れも落とすぞ、みたいな気迫が伝わってきます。ただただ、一生懸命なその姿に、胸を突かれました。

常々、床の美しさに感心していた私です。でも、当然モップで磨いてるんだろうと思っていました。まさか、手で磨いていたなんて。まさか、他人が使うトイレの床に、しゃがみ込んで拭いていたなんて。
彼女がそんなにこころを込めて綺麗にしてくれていた場所を、私たちは何も考えずに土足で歩き回っていたんだと思いました。
そして、私の中の、「職業に貴賎はあるのか」というヤワな疑問は粉々に砕け散りました。

トイレの掃除だろうか、大会社の社長だろうが、関係ない。
職業ではなく、ひとのこころに貴賤があるだけだ、と。

このひとはただ、自分の仕事に手を抜くことなく、一生懸命やっているだけだ、と、思いました。
そういうひとは、尊いに決まっている。

そして、こんな簡単なことをわかるのに、私は20年もかかったのだなあと思いました。

実は、20年前の彼氏とは今も時々会っています。
今度、彼に、20年たった今も、同じ考えを持っているのか、聞いてみたいと思いました。
20年たって、ようやく彼に反対する、自分の意見を持てたので。



posted by kanaliyahouse at 13:18| Comment(10) | TrackBack(0) | 土星 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は職場が新しくなるたびに一番最初に仲良くなる人がお掃除の方や警備の方です。
お掃除をしているかたを見ると
「何年か後には自分は生活のためにこの仕事をしているかも知れない・・・」
という思います。
今は、たまたま仕事があってこの仕事をしているけど、仕事がなくなったら、きっと何でもすると思うから、、、
ただ、掃除が苦手なのでちょっと決意はいりますけどね。
そんな時に自分の子供が私の仕事を恥じるようだったら、、、。
悲しいですね
Posted by nakamama at 2006年10月28日 20:39
20年前の彼は、きっとその時若かったからそんなこと言ったのかな・・。
20年たった今はきっといろんな経験をして、大人になってるんじゃないかな・・って思います。
どんな答えが返ってくるのでしょうね?!
Posted by FRESH at 2006年10月28日 21:57
職業に貴賎はあるのか?
その答えって問いに対して相対的な答えなら
いくらだってあるわけで…正解・不正解なんてないわけで
そもそもそうい問いが、ん?って思っちゃうかな。
ぼくの会社のビルの掃除のおばさんはは、
季節の花の名前とか育てかたとか教えてくれます。

人間が言葉をしゃべるかぎりあらゆる“問い”は無限にありうるわけで、その答えは相対的なことなんでいくらだってあったりするわけで、だから、答えってそんなに重要じゃあない、むしろ問いこそが大切。そもそも問いにこそに、その人のセンスが現れると思うんですよ。
Posted by ヒジキ at 2006年10月29日 00:17
♪nakamamaさん、コメントありがとうございます。

>「何年か後には自分は生活のためにこの仕事をしているかも知れない・・・」

実は、私もよく思うんです。
あと、路上生活者の方達を見ていても思います。

他人事ではない、自分のことだと、いつも感じています。

私はnakamamaさんより家族が少ないし、私の家族は皆大人ですから、いろんな事情もわかってくれる。けれど、nakamamaさんのお子さんには、それを期待できるだろうかと思います。お子さんにはわかってもらえても、お子さんのお友達はどうだろう、とか。お子さんのお友達のご家族は、とか。

だから、20年、自分の意見を持つことができませんでした。

けれどね、私は学んだのです。
彼女のお仕事ぶりに、私は感動しました。
彼女は私を感動させてくて仕事をしていたわけじゃなく、私が勝手に感動したんですけど。

きっとこの感動が私の気持ちを強くしてくれる、そんな風に思っています。

Posted by kanaliya at 2006年10月29日 10:15
♪FRESHさん、コメントありがとうございます。

>20年たった今はきっといろんな経験をして、大人になってるんじゃないかな・・って思います。

彼との未来をかつて夢見ていた私です。
彼から別れを告げられて、ずいぶん悩み、苦しみました。

あの頃の私は、彼が気に入る答を言える女性になりたいと思っていた。だから、自分の意見を持てませんでした。

今やっと、彼の呪縛から解き放たれて、考え抜いた揺るぎない自分の意見を持ち、彼と語り合うことができるようになりました。
20年前の私に、今の彼の答を聞かせたい、そんな風に思います。
Posted by kanaliya at 2006年10月29日 10:22
♪ヒジキさん、コメントありがとうございます。

>そもそも問いにこそに、その人のセンスが現れると思うんですよ。

そうですね。
ヒジキさんからいただいたコメントは、また新たな問いかけのように、私には感じられます。

そして、この問いかけの中に、ヒジキさんのセンスも現れていると思いました。
Posted by kanaliya at 2006年10月29日 10:25
きれいにするということは、大事なことです。

定年後の仕事に掃除の仕事に就こうかとも思っています。

仕事には、ひたむきさが必要ですね。
Posted by OIL at 2006年10月30日 07:02
♪OILさん、コメントありがとうございます。

私のお掃除のお仕事への考えを固めさせてくれたのは、この記事の彼女だけじゃなく、ある清掃会社の考え方とお仕事ぶりもありました。
いつか、その会社のことも書きたいと思っています。

仕事とは、生き方を反映するものだと思います。

Posted by kanaliya at 2006年10月30日 08:01
ははは!
私は若かりし頃から『掃除の人』に憧れているのですよ(^_^)
次、仕事を始めるのなら掃除がいい!
だって〜、私に掃除できないとこはないと密かに自信を持ってるも〜〜ん♪
トイレだろうが排水溝だろうがやってやるよ〜。
でも得体の知れないモノとか出てきたらちょっと怖いな(-_-;)
Posted by ぱんまりまま at 2006年11月04日 23:45
♪ぱんまりままさん、コメントありがとうございます。

すっごい、突き抜けてますね〜
頂いたコメントを読んで、私は小さいなあ〜と思いました。

この記事書いて、良かったなあと思います。

>でも得体の知れないモノとか出てきたらちょっと怖いな(-_-;)

あああ、ときどきとんでもないものが置かれてたりしますからね。。
でも、それも得がたい体験かも??
Posted by kanaliya at 2006年11月05日 10:41
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